民法(遺言関係)改正に関する中間試案に対するパブリックコメントを提出

令和7年9月17日 お知らせ

民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案に関する意見書

 

法務省民事局参事官室 御中

令和7年9月17日

全国司法書士法人連絡協議会

理事長 荻野恭弘

第1 普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言方式の創設

【要旨】

乙案を支持する。

【理由等】

我が国は急速に高齢化と多死社会を迎えており、令和6年には年間死亡者数が160万人を超え、65歳以上人口は総人口の約3割、75歳以上人口も16%を超えている。単身世帯は全世帯の34%に達し、家族の形態は大きく変容している。このような社会環境のもと、遺言制度の役割はかつてなく重要性を増している。

遺言は、相続人間の公平を調整するだけでなく、相続登記を促進することで所有者不明土地や空き家の発生を防ぎ、さらに法定相続人がいない場合に公益法人等へ遺贈を可能とすることなど、社会的課題の解決にも資する。したがって、遺言制度は広く利用可能であることが強く要請される。

その観点から、当協議会は新方式として乙案を支持する。乙案は、公的機関における保管を前提としており、デジタル技術を活用しつつも、遺言の紛失・未発見のリスクを排除し、遺言者本人の出頭・ウエブ会議での口述を通じて真意性・真正性を確保する仕組みが必要である。これは、現行の自筆証書遺言の脆弱性を克服しつつ、公正証書遺言よりも負担を軽減した、中間的で実効的な制度設計と評価することができる。

まず、乙案は、公的機関が電磁的記録をそのまま保管する仕組みを採用しており、デジタル化が進展した現代社会に適合する制度であると評価することができる。

他方で、丙案については、一定の利用可能性を有するものの、最終的に紙媒体に依拠する方式は、制度全体の効率性や利便性を後退させるおそれがある。たとえば媒体の維持コスト倍増のリスクが大きいといえる。とりわけ次世代にとっては、デジタルデータを紙に戻す手続は不自然かつ冗長であり、制度設計として持続可能性に乏しいものだと言わざるを得ない。

さらに、乙案については、公的機関の関与により紛失や死後の未発見を防止できるとともに、本人確認を経て保存されることから、遺言の真正性を確実に担保する。さらに、電子署名やオンライン申請を通じて効率性を高めることができ、国民にとって利用しやすい制度として普及が期待できる。

以上から、乙案の導入は、遺言の確実な所在担保に資するだけでなく、相続登記の円滑化を通じて所有者不明土地問題の解消にも直結する。立法事実として掲げられる社会的要請に応えるものとして、乙案の採用が妥当であると考える。

 

第2 自筆証書遺言の方式要件の在り方

1 自書を要しない範囲

【要旨】

現行の制度を支持する。

【理由等】

自筆証書遺言は、簡便性の反面、紛失・未発見や形式的瑕疵のリスクを内包する。いわゆる平成30年改正(平成30年法律第73号)により財産目録の自書不要化や法務局保管制度が導入されており、さらなる要件緩和は真意性確保を損なう危険がある。

今回、デジタル方式(乙案)が導入されれば、利用者は十分な選択肢を得ることになるため、自筆証書遺言については現行の枠組みを維持することが適切であると考える。

2 押印要件

【要旨】

押印要件は不要とする。

【理由等】

押印は歴史的に本人確認や真正性担保の機能を果たしてきたが、今日においては実効性を欠いている。署名により、遺言の真正性は十分に確保できる。押印要件を残すことは、形式不備による遺言無効のリスクを高めるだけであり、国民の遺言意思の実現を不当に妨げることから、押印要件は廃止すべきであると考える。

以上