成年後見制度改正に関するパブリックコメントを提出
令和7年8月26日
お知らせ
当協議会として下記の通りパブリックコメントを提出しました。
民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案に対する意見書
法務省民事局参事官室 宛て
令和7年8月19日
一般社団法人 全国司法書士法人連絡協議会
理事長 荻野恭弘
全国司法書士法人連絡協議会は、法制審議会民法(成年後見等関係)部会が令和7年6月10日に取りまとめた「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」に対し、以下のとおり、意見を提出いたします。
1.法定後見制度の枠組みと本人の自己決定権の尊重(中間試案 第1の1(1)及び(2))
現行の法定後見制度は、「後見」、「保佐」、「補助」という3つの類型に分かれており、硬直的であり利用しにくいとの指摘があります。特に、成年後見人の包括的な代理権等により、本人の自己決定が必要以上に制限されるおそれがある点が問題視されています。また、法定後見の開始に際して、本人の同意を要件とするか否かも重要な論点です。
これに対し、当協議会は【乙2案】を支持します。
【乙1案】に対する意見:
乙2案との対比において、乙1案に対しては下記のとおりの懸念が挙げられます。
・事理弁識能力を「欠く」常況にある者と「不十分である」者との線引きがされず、不十分である者からの積み上げでの保護を要することで、本人、請求権者、家庭裁判所への負担が増大する懸念があります。
・乙1案においては、現行の3類型から1類型となる制度設計上、現行制度を大幅に変更することとなり、現行制度との整合性を図ることが困難になり法的安定性に懸念があります。
【乙2案】の主なメリット:
- 本人のニーズに応じた柔軟な保護が可能になります。現行の硬直的な3類型を見直し、本人の判断能力の程度と具体的なニーズに応じて、「保護A」(同意権・代理権を個別に付与)と「保護B」(現行の後見に相当する一定の権限を付与しつつ、追加・限定も可能)の2類型に分けることで、過度な行為能力の制限を防ぎ、必要な範囲の支援を受けられるようになることになります。
- 本人の自己決定権を最大限尊重します。特に「保護A」の仕組みは、原則として本人の同意を要件とし、特定の法律行為について必要な範囲で同意権や代理権を付与するため、本人の意思を重視した制度設計となることになります。
- 意思能力を欠く常況にある方への保護を確実に確保します。【乙2案】における「保護B」の仕組みでは、事理弁識能力を欠く常況にある場合については本人の同意を必須としないことで、意思表示が困難な者の保護を滞りなく開始できます。同時に、保護者には法律で定められた一定の権限(現行の成年後見人の包括的な代理権等よりも狭い権限)が付与され、さらに個別の権限追加も可能となるため、必要な保護を網羅的に提供しつつ、包括的な代理権による過度な制限も抑制されることになります。
- 既存の関連法制度との整合性が維持されます。【乙2案】は、意思表示の受領能力(民法第98条の2)、時効の完成猶予(民法第158条第1項)、成年被後見人の遺言(民法第973条)といった、事理弁識能力を欠く常況にある者を前提とする現行民法の他の規定や民事訴訟法等の制度との整合性を維持できるため、法制度全体の安定性にも寄与することになります。
2.法定後見制度における期間の設定(中間試案 第2の2)
現行の法定後見制度では、事理弁識能力」が回復しない限り利用をやめることができないという問題点が指摘されており、一度制度を利用すると終了しにくいという大きな懸念があります。
これに対し、当協議会は【乙1案】を支持します。
【乙1案】の主なメリット:
- 制度の「出口」が明確になり、国民の安心感を高めます。現行の「事理弁識能力が回復しない限り利用を止められない」という利用者の大きな懸念を解消し、法定後見の開始時に期間を定めることで, いつまで制度が適用されるのかの予見可能性が高まることになります。
- 定期的な見直しが制度的に担保されます。家庭裁判所が期間を定め、期間満了時には自動的に終了するか、更新が必要かを斟酌する仕組みとなることで、本人の状況が変化したにもかかわらず後見が漫然と継続される事態を防ぎ、本人の状況にあった支援を提供できる可能性が高まることになります。
- 本人の自己決定権を尊重する機会が確保されます。期間満了前に、保護者には更新の要否の報告義務が課され、本人や申立権者には更新の申立てが認められるため、本人の意向を再度確認し、それに沿った制度利用の継続や終了を判断する機会が制度的に保障されることになります。
- 本人の不利益を防ぐセーフティネットも備わっています。万が一、保護者による報告がなかった場合でも、家庭裁判所が職権で期間を伸長できる案も検討されており、本人の保護が途切れるリスクを軽減する配慮がなされています。
3.任意後見制度と法定後見制度の併存の可否及び任意後見人の監督の負担(中間試案 第5及び第6)
現行法では、任意後見契約が存在する場合でも、法定後見制度が開始されると任意後見契約は原則として終了し、両制度は併存しないことになっています。このため、本人の意思を尊重する任意後見契約を活用しつつ、特定の状況で法定後見による保護を補完的に利用することができないという問題があります。また、任意後見制度においては、任意後見監督人による監督が必須であり、その報酬が負担に感じられるという意見が約19%から22%に上っています。
これに対し、当協議会は【乙案】を支持します。
【乙案】の主なメリット:
- より柔軟で包括的な本人保護が可能になります。任意後見制度と法定後見制度の併存を認めることで、本人の意思を反映した任意後見契約を維持しつつ、当該契約だけでは対応できない新たな事態(例:任意後見契約にない特定の法律行為が必要になった場合など)が生じた際に、法定後見制度を補完的に利用できるようになります。これにより、本人の利益が多角的に守られ、途切れることのない支援が提供されることになります。
- 本人の自己決定権の尊重を最大限に実現します。本人が自ら選んだ任意後見人による支援を継続できる任意後見契約を基盤としつつ、その意思では対応しきれない状況には法定後見により補完することで、本人の意思が最も重視される運用が可能になります。
- 任意後見監督人による報酬負担が軽減される余地があります。任意後見監督人の選任を必須とせず、家庭裁判所が直接監督することも認めることで、利用者が任意後見監督人の報酬負担を感じる場合に、その負担を軽減できる選択肢が提供されます。これにより、費用がネックとなり制度利用をためらう方々の後見制度へのアクセスを促進する効果が期待できることになります。
- 多様な状況に応じた監督体制を選択できます。任意後見人の専門性(例:司法書士等の専門職)や本人の資産状況に応じて、任意後見監督人を選任するか、家庭裁判所が直接監督するかを柔軟に判断できるようになるため、個々のケースで最適な監督体制を構築することができます。
以上